2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。制度施行から2年余りが経ち、現場では「残業で無理やり吸収する」というこれまでのやり方が通らなくなってきています。工期は変わらないのに稼働できる時間は減り、その分は人を増やすか外注に出すかでカバーするしかない——結果として、じわじわとコストが上がっているはずです。
問題は、そのコスト増が「なんとなく忙しいのに、なぜか手元にお金が残らない」という形でしか見えていないケースが多いことです。上限規制の時代に危ないのは、工事ごとの採算が見えない”どんぶり勘定”のまま走り続けることです。
なぜ今、原価・収支管理なのか
これまで建設業の多くは、工期の遅れや突発対応を残業で吸収してきました。残業代は増えても「なんとか終わった」で済んでいた部分があります。ところが上限規制で残業に上限がかかると、その吸収ができなくなり、人員の追加や外注、工期の延長といった形でコストが表に出てきます。
このとき、会社全体の売上と利益だけを見ていると、「どの工事で儲かって、どの工事で持ち出しになったのか」が分かりません。全体では黒字でも、実は赤字の工事を別の工事の利益で穴埋めしているだけ、という状態は珍しくありません。上限規制でコスト構造が変わった今こそ、工事単位で採算を見る必要があります。
“見えていない”と起きること
工事ごとの収支が見えていないと、次のようなことが起こりがちです。まず、赤字の工事に気づけません。終わってから「この現場、思ったより残らなかったな」と感じても、原因がどこにあったのかを振り返れません。次に、赤字になりやすい条件の仕事を、知らないまま繰り返し受けてしまいます。そして、入金と支払いのタイミングがずれて、黒字なのに資金繰りが苦しくなる、いわゆる黒字倒産に近い状況に陥ることもあります。
最低限おさえたい3つの視点
難しい会計を導入する必要はありません。まずは次の3つを工事ごとに把握するだけでも、見え方が大きく変わります。
- 工事ごとの入りと出 — その現場でいくら受注し、材料・外注・人件費などにいくら使ったか。差し引きがその工事の粗利です。
- 原価の内訳 — 同じ「経費」でも、材料費なのか、外注費なのか、労務費なのかを分けておくと、どこにコストがかかりすぎているかが見えます。
- お金の出入りのタイミング — いつ入金があり、いつ支払いが出るか。利益が出ていても、支払いが先行すれば資金は詰まります。
いきなり全部は難しくても、「工事番号ごとに収支をつける」ところから始めれば十分です。エクセルでも、工事ごとにシートや行を分けて、入ってきたお金と出ていったお金を記録するだけで、“どんぶり”からは抜け出せます。具体的なExcelでの記録方法は工事ごとの利益をExcelで管理する方法で詳しく紹介しています。
まずは工事ごとに分けることから
上限規制は、単なる労務のルール変更ではなく、コストの見え方そのものを変える出来事です。残業で吸収していた分が表に出てくる以上、これからは「工事ごとにいくら残ったか」を把握できる会社と、そうでない会社とで差が開いていきます。
とはいえ、一人親方や少人数の工房が、いきなり高価な管理システムを導入する必要はありません。大切なのは、工事ごとに収支を分けて記録するという習慣です。まずは手元のやり方に、この視点を一つ足すところから始めてみてください。
当工房では、確定申告に向けた工事ごとの収支管理に特化した買い切りツール「シンプル工事台帳 ライト版」を提供しています。工事番号ごとに入出金を記録し、年間の収支をまとめられる、“最低限・シンプル”に振り切った作りです。
本記事は一般的な情報をまとめたものです。経営判断や会計・税務の取り扱いについては、税理士等の専門家にご確認ください。
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